美容師が知っておきたい「社会保険」の基礎知識

美容師が利用できる社会保険について、種類や活用例などを紹介します。

美容師の社会保険の種類

健康保険

健康保険とは、毎月決まった額を協会や組合に支払うことで、ケガや病気の際の医療費を3割程度の負担に抑えられる保険です。

多くの会社員などが加入している「全国健康保険協会」や自営業の方・学生などが加入する「国民健康保険」、理美容師専門の「全国理美容健康保険組合」や東京や大阪の美容室で加入できる「東京美容国民健康保険組合」「大阪府整容国民健康保険組合」など、種類はさまざまです。

なお、ケガや病気のときに活用できる「傷病手当」や、出産育児で利用できる「出産育児一時金」なども健康保険から支給されます。

年金

年金には国民年金と厚生年金の2つの種類があります。国民年金には20歳以上から60歳未満の国民が払うという義務があり、美容室で社会保険に加入できない場合は自分で国民年金を支払うことが必要。国民年金は毎月決まった額を一定期間支払い続けることで、将来老齢年金や障害年金などを受け取ることができます。

また、厚生年金では組織や企業で加入し、毎月決まった額を支払います。厚生年金に加入していると、将来もらえる国民年金に上乗せして厚生年金を受け取れます。

雇用保険

給与額や賞与額に雇用保険料率を乗じた保険料を支払います。雇用保険では「失業手当」が広く知られていますが、そのほかにも「再就職手当」や「育児休業給付」、「介護休業給付」などがあります。

なお、ケガや病気で働けなくなった際に利用できる「傷病手当」もありますが、在職中は健康保険の傷病手当を、失業中は雇用保険の傷病手当が利用できます。

労災保険

通勤中や勤務中に起こった傷病に対して利用できる保険です。従業員の保険料負担はありません。傷病の治療に必要な医療費を厚生労働省が負担してくれます。ただし、通勤を含めた勤務中に限定される保険のため、それ以外で起こった傷病に関しては適用されません。

美容師が退職したときに利用できる社会保険の例

美容師が退職したとき、在職中に社会保険に加入していることでもらえる手当があります。ここでは、「失業手当」と「再就職手当」について紹介します。

美容師退職後の生活を支える「失業手当」

利用する保険:雇用保険

加入していた雇用保険から支払われる失業時の手当金です。美容師退職後の失業中の生活を支える大切な手当金であり、手当金があることで新たな就職先を探すことに専念できます。

手当金を受け取れる対象は?

まず、失業手当は「働く意志や能力があるのに就職できていない人」に支払われる手当金です。そのため、再就職の意思がないのに手当を受け取ることはできません。

失業手当給付の対象となる条件は、自己都合などによる一般の離職の場合は「離職した日以前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算で12カ月以上ある」こと。また、自分の意思に反する事由がある特定理由離職者や特定受給資格者は「離職した日以前1年間に被保険者期間が通算で6カ月以上ある」ことが条件です。

どのくらいもらえるの?

自分がもらえる失業手当金がいくらになるのかは、在職中の給与額や手当金給付が認められた期間によって異なります。1日あたりの金額は基本手当日額とよばれ、賃金日額から算出されます。計算方法は以下です。

「賃金日額」=「離職直前の6ヵ月間に支払われた給与総額」÷「180日(6ヵ月分)」

たとえば離職する直前6ヵ月の給与総額(ボーナス除く)が153万円の場合、180日で割ると1日8,500円の賃金日額が算出されます。その賃金日額におよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)をかけた金額が基本手当日額となり、賃金が低い人ほど高い率で計算されます。

失業手当は在職中同等の金額を手にすることはできないものの、失業手当金があれば失業中の生活費の心配が軽減されます。失業中は出費を抑えつつ、再就職先を探すことに専念しましょう。

なお、失業手当金を受け取れる日数は90~360日間と人によって異なり、年齢や雇用保険加入期間などによって決定されます。

また、申請から振り込みまで1ヵ月以上かかるなどの注意点もありますので、失業手当を申請する際は詳細までしっかり確認しておきましょう。

参考:ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html

早期再就職を促進「再就職手当」

利用する保険:雇用保険

再就職手当とは、失業後の早期再就職を促すための制度です。失業手当を受け取る人のなかにはあえて失業手当を満額もらってから再就職しようと考える人もおり、失業期間が長くなってしまうことも。そういったことを避けるために再就職手当制度が用意されており、「失業手当を受給している期間中に、安定した職業へ再就職した場合」に適用されます。

なお、再就職とは事業開始も含まれるため、「社会保険に加入しながら働いた美容室を退職し、個人事業主として自分の美容室を開業する」という場合にも利用できます。

どのくらいもらえるの?

まず、再就職手当は「失業手当を受給している期間中に安定した職業へ再就職した場合」にもらえるものですが、「基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あることが条件となります。たとえば所定給付日数が90日の場合、3分の1にあたる30日以上の支給残日数がないと再就職手当の対象となりません。

また、支給残日数が3分の2以上ある場合は残った日数分に70%をかけた金額を、3分の1以上ある場合は60%をかけた金額が支給されます。

なお、基本手当日額には上限が設けられているなどもありますので、申請をおこなう際は詳細まできちんと理解するようにしましょう。

参考:ハローワークインターネットサービス(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_stepup.html

退職しても社会保険を任意継続する方法もある

利用する保険:健康保険

社会保険では原則退職と同時に脱退するものですが、全国健康保険協会などでは退職後も任意継続できる制度があります。被保険者期間や申請提出期間などの条件があり、退職日の翌日から2年間の加入が認められます。全国健康保険協会では、上限を30万円とした退職時の標準報酬月額より保険料が算出されます。

参考:全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/

美容師が在職中に利用できる社会保険の例

社会保険に加入していると、毎月給与から保険料が差し引かれます。決して少額ではないため、「毎月こんなに引かれてしまうのは納得いかない…」と感じてしまう人も多いかもしれません。

ですが、社会保険には加入によるさまざまなメリットがあり、退職後はもちろん在職中にも利用できる制度が充実しています。

出産による休業をサポート「出産手当」

利用する保険:健康保険

出産手当とは、出産するにあたって仕事を休み、会社から給与を受け取れない人に対して健康保険から支払われる手当金です。出産日前42日(双子以上の多胎の場合は98日)~出産翌日以降56日までの期間を対象に、標準報酬日額の67%(3分の2)にあたる金額を受給できます。

出産手当を受給できることで出産時の生活費の心配が軽減されるため、今後仕事を続けながらの出産を考えている方はぜひ活用しましょう。

参考:全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat315/sb3090/r148/)

出産にかかる費用に充てられる「出産育児一時金」

利用する保険:健康保険

出産育児一時金とは、出産時に赤ちゃん一人につき42万円が健康保険から支払われる手当金です。出産費用は高額になることが多いものの、出産育児一時金を受給できることで出産時の出費を抑えることができます。

参考:全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat315/sb3080/r145/)

産後の育児休暇の生活を支える「育児休業給付金」

利用する保険:雇用保険

育児休業給付金は雇用保険から支払われる手当金です。出産後育児のために休職するとき、仕事を休んでいるため給与を受け取れません。そこで育児休業給付金を受け取ることで、生活費の心配なく育児に専念できるのです。

受給には「育児休業を開始した日前2年間に被保険者期間が12か月以上ある」という条件があり、給与の67~50%を最長2年間受け取ることができます。

参考:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html)

ケガや病気による休業時も安心「傷病手当」

利用する保険:健康保険

傷病手当とは、社会保険加入中にケガや病気などで勤務ができなくなってしまった場合に利用できる制度。一定期間健康保険に加入していることで給付の対象となります。支給開始から最長1年6ヵ月間の需給が可能です。給付金は標準報酬日額の67%(3分の2)に休業が認められた日数分支払われます。

なお、業務外での事由による傷病が対象のため、たとえば美容師として勤務中に負ったケガや業務が理由となった病気は対象外となります(通勤や勤務中の傷病は労災保険でカバーされます)。

また、退職まで健康保険の傷病手当を利用していたものの、退職にあたって健康保険を脱退することも考えられます。その場合は雇用保険の傷病手当を利用することで、ケガや病気により再就職が難しいときのサポートを受けられます。

参考:全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)

介護による休業をサポート「介護休業手当金」

利用する保険:雇用保険

家族の介護で仕事を休んだ場合に給与の67%(3分の2)を受給できる制度です。加入している雇用保険から支払われます。家族の介護のために2週間以上の休業を必要としたときに最長3ヵ月間の給付を受けられます。

最長3ヵ月間と比較的短期間ではありますが、介護を理由に退職する必要がなくある程度の生活費を確保できるうえ、仕事復帰もしやすいメリットがあります。

参考:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html

社会保険を用意していない美容室もある

在職中も退職時もサポートを受けられる社会保険ですが、美容室のなかには社会保険制度を用意していない美容室もあります。雇用保険と労災保険はどの美容室でも加入義務(美容室側)がありますが、健康保険や厚生年金については加入義務がない美容室もあるのです。

法人経営の美容室では社会保険加入が義務となっているものの、個人事業主が営む少人数の美容室では加入が任意となります。健康保険や厚生年金は美容室側と従業員が保険料を折半して支払っているため、個人事業主にとって大きな負担となることがあるのです。そのため、美容室によっては健康保険や厚生年金が用意されておらず、自分で国民健康保険や国民年金を支払う必要があります。

美容師ならではの保険も

美容師の保険として「全国理美容健康保険組合」もあります。理美容師のみが加入できる保険であり、法人経営の美容室やフリーランス美容師などが対象です。また、東京や大阪の美容室で加入できる「東京美容国民健康保険組合」や「大阪府整容国民健康保険組合」もあります。いずれも保険料の規定や手当の種類や金額が異なることがあるようです。

社会保険完備の美容室で長く安心して働こう

美容師として長く安心して働くためには、社会保険完備の美容室がおすすめです。社会保険に加入することでケガや病気をしたときの手当や出産育児の手当など、さまざまなサポートを受けられます。また、厚生年金に加入していれば将来手にする年金額も増えるでしょう。

これから美容師として働くにあたり、「ケガや病気のときの収入が心配」「働きながらそのうち出産したいと思っている」「将来もらえる年金額を少しでも増やしたい」などと考えている方も多いはず。将来どう働いていきたいかも考慮したうえで、社会保険完備の美容室を選ぶことをおすすめします。